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「やっぱりチブスで?」
あるとき一人の女の客が私に話をした。
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
「それは、小規模な演習だからして居らん」
「あら!」
房一はその時診察用の椅子に腰を下して、ゆつくりと煙草をふかしながら、何気ない風で男の様子に目をつけていた。彼は男の要求する意味を悟つた。たゞ治療をしろ、他のことは見て見ぬ振りをしてくれ、まして他言は無用だ、といふ意味だつた。
練吉はさういふ今泉の足もとを見、更にじろりと皺一つよらない衣裳を見上げた。何か疳にさはつたやうな色が動いた。そして、一言できゆつと相手をへこまさうとする時のやうに、神経的に口を曲げ、今にも云ひ出さうとした時、少し離れたところから手招きしている房一と小谷とに気づいて、そのままそつちへ行つてしまつた。
「どうしなさつた」
その時、又あの鈍い重量のある音が下流の方からどよめいて来た。それは前のよりもはるかに大きく、つゞけさまだつた。
「チブスじゃないです。医者は何とか言っていたですが、まあ看病疲れですな。」
「なんだ、さつぱり判らんぞう」
と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。